Épisode 1  AMOUR


湿った水音と、硬いものを砕くやけに大きく響く音。
情欲にまみれた低い呻きと喘ぎ。
優しく膚を這う、その手つきはあくまで愛情に溢れ、さながら褥に添い伏す恋人のよう。
断続的に上がる鋭い喚きには甘やかな囁きを耳に吹き込み。
励ますように、絶頂を共に迎えんとするかのように。
啜り、啄ばみ、咬み裂き、呑み込む。

──ああ。
あいしているよ。愛しい、いとしい私のお前。

と、心の奥底からの悦びを声ににじませ、長い息を吐く。
かりり、と人差し指に軽く歯を立てて、手指を一本ずつねぶる。

初めて見た時からお前が欲しくて堪らなかった。
お前の伏せた眼に落ちる睫の影。
慎ましやかに見えて、何ものにも染まることのない。
その眸の奥に宿る、鮮烈な焔のいろよ。

あいしているよ。
あいしているよ、お前を。
この、白く薄い、静脈さえ透けて見えるような膚も。
口接けを誘うようにうっすらと開く、紅い口唇も。
しなやかな腹筋のうねりも、張り詰めた腿も。
まろみを帯びた尻肉も。

名残惜しげに指先に口接けた後は、わななく口唇を塞ぐ。
洩れる細い息を盗み、舌に歯を当て。
ぶつり、と。
肉の断ち切られる音、一瞬後に遠雷のようなくぐもった喉音。
血臭はもはや耐え難く、閉ざされた部屋を覆う闇さえ紅く染まるよう。

二つの影は闇奥で絡み合い、重なり合い、やがてひとつに溶けあうだろう。
求めるものと求められるものの、パ・ド・ドゥを踊り終えたなら。

あいしているよ。
おまえのすべてを。
おまえじしんよりも。
あいそのものよりも。