深々と貫かれる。
硬く鋭い牙に膚を噛み裂かれながら、熱された刃を身の内に受け入れるたび、恍惚と小さな死を味わう。
生まれて間もない所為か、この子の血はまだ熱く、冷え切ったからだを温めてくれる。
熱い生命の火花が、繋がったこころとからだ、両方の内側で弾けるのを感じることが出来る。
それは何よりも貴重な癒し。
いつからだろう、この子に自分の闇を委ねるようになったのは。
こうされねば眠れぬと、声に出して伝えた訳ではない。
ただ、そうされるのが嬉しいと、肯定した。
そして時に、そうされたい、と強請った。
それ以上の言葉は、要らなかった。
優しい愛し児は、その通りにしてくれた。
望みどおりに組み敷いて、引き裂いてくれた。
澱のように己の内に深く溜まった被虐の欲求。
じわじわと蝕んでゆく汚泥。
時折その闇に沈んで満たさなければ、狂ってしまいそうだ。
どれほど酷い要求だろうと、自分を求めてくれる相手の望みならば、可能な限り叶えた。
殴られ、痛めつけられ、売られ、時には殺されることさえ受け入れた。
求められているその瞬間だけ、忘れていられるのだ。
凍えたからだを。かじかんだ魂を。
たとえそれが偽りであったとしても、必要とされたかった――お前は存在してもいいのだと、生き続けていいのだと、自分に信じ込ませる為に。
やがてそれは、自傷に近い悪癖となった。
自身が望まなくとも、灯火に引き寄せられる蛾のように、己を利用する者たちに惹きつけられて、身も心も焼かれた。
そのたびに投げつけられた侮蔑の言葉。同族の嘲り。血を分けた子らの失望。
お前は薄情だと――多情だと――誇りの無い――誰にでも身を任せる――……
……いつかこの子も、そんな言葉を吐くようになってしまうだろうか。
でもそれでも。いや、もしかしたら。
東の空が白む頃、力強い腕に抱き寄せられると、噛み傷だらけの身体を摺り寄せる。
愛し児の喉もとに唇を寄せ、少しだけ血を分けて貰う。実のところは、夜のうちに分け与えた分を返して貰う。
喉を滑り落ちていく甘露は、愛し児の生命の味がして、ほんの少量でも身体の隅々まであの火花が行き渡る心地がする。
そうして、身体の窪みにすっぽりと収まって、夢の無い、眠りではない眠りにつく。
夕刻、目が覚めれば、身体の傷痕は綺麗さっぱり消え失せているだろう。
また目覚めるのを恐ろしいと思わずに済む、と、愛し児の盾のような胸にあかがね色の頭を預けて、そんなことを考えながら目を閉じた。
人狼SNS「人狼で吸血鬼をやる」コミュからの再掲です。
トップバッターは愛し児ドナルドに。
ドナルドは、血親と子であると同時に、対等の契約者でもあり、甘えてムニャムニャ(笑)する仲でもあったりと、もうひとりの愛し児ユリウスとは全く異なる関係であったのが印象的でした。